治療内容 - MICS(低侵襲心臓手術)

低侵襲心臓手術(MICS:Minimally Invasive Cardiac Surgery)について

MICSの定義は人工心肺を使わない、もしくは胸骨正中切開を行わないとされており、当院でも冠動脈バイパス術では人工心肺を使用しないOPCABを第一選択としています。弁膜症手術につきましても、可能な方には胸骨を切開せずに小切開で手術を行っております。

6-8cmの小さな傷で内視鏡を見ながら行う弁膜症のMICS手術を2012年9月から行っております。

術後のQOLを考慮した心臓弁膜症手術として

心臓の手術といえば、一昔前までは生きるか死ぬかの大変な手術でした。多くの経験と人工心肺や心筋保護といった技術の進歩に伴い、現在では状態の悪い方や、緊急の手術を除けば、手術の成績は数%のリスクまで改善されてきました。手術成績は満足しうる段階に達し、手術成績や合併症にてついて議論する時代から、いかに患者さんのQOLを向上させるかを議論する時代に移ってきました。現在は消化器外科をはじめとして、ほとんどの外科領域で内視鏡を使用し、小さな傷で術後の回復が早い手術が行われているようになり、当院でも昨年9月より心臓弁膜症を中心に内視鏡補助による小さな傷で行う手術を開始しております。

従来、心臓の手術となると一般的に胸の真ん中にある胸骨という3-4cmの板状の骨を上から下まで20-30cmほど切開して、胸を大きく広げて心臓の手術を行ってきました(図1a)。このアプローチ方法は心臓から大動脈に至るまで良好な視野が確保できるため、あらゆる手術に対応可能でゴールデンスタンダードなアプローチであることは現在でも変わりません(図1b)。しかしながら、このアプローチは重篤な合併症の一つである胸骨の感染を起こす可能性があります。

  • 図1a:胸骨正中切開
  • 図1b:正中切開による術野

ひとたび胸骨の感染を発症すると完治するまでに最低でも数か月の入院が必要となり、場合によっては命に係わることも少なくありません。また、胸骨がしっかりと癒合するまでの2か月間は車の運転を含めた運動制限があり(イラスト1,2)、多くの患者さんが2か月の間のうちに体力が低下し、結局、日常生活に戻るのに数か月-半年かかることもあります。女性の方などは胸に大きな傷が残ることで、洋服に気を使われたり(イラスト3)、気軽に温泉に行けなくなったということもあります。

私たちの行っている右小開胸の手術では内視鏡や特殊な道具を使用することにより、腋の下もしくは乳房の下を5-8cm切開して肋骨の隙間より心臓の手術を行います(図2a,b)。骨を大きく切開することもなく、小さな傷ですので、これまでのような退院後からの運転や力仕事、運動といった制限はなく、早期に日常生活に戻ることが可能です。傷も腕を挙げたりしない限りは目立たず、美容面も含め、患者さんの満足度は非常に高い手術です(図3)。

  • 図2a:右小開胸

図2b:右小開胸の術野と内視鏡による胸腔内の術野(人工弁縫着後)

図3:乳房下縁切開による僧帽弁形成術

実際に当院でこの手術を受けられた方々で、趣味のゴルフやスキー、水泳、温泉など(イラスト4)、退院後の早い時期から楽しまれ、退院後の生活を満喫されている方が増えています。

もちろん、すべての方に可能な術式ではありません。動脈の石灰化が強い方や、いくつもの手術を同時に行わなければいけない方は適応外としていますが、基本的に大動脈弁、僧帽弁、三尖弁を含め、心房細動に対するMAZE手術、心房中隔欠損症や心臓粘液腫の手術で可能です。特に大動脈弁については、これまで腋の下からの手術は不可能と考えられてきた術式で、現在、使える施設は限られています(図4)。

図4:腋窩アプローチによる大動脈弁置換術(TAX AVR:Trans-axillary Aortic Valve Replacement)

この一年間で20名の方が小切開での心臓手術を受けられ、患者さまの満足度が非常に高いことを実感しております。今後も術後のQOLを考えた、患者さんに喜んでもらえる手術を続けていいきたいと考えています。