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松本協立病院

社会医療法人 中信勤労者医療協会 松本協立病院
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山岳遭難の現状CLIMBER 2022年7月29日

山岳遭難の現状

日本国内では登山者の数は年々増えています。日本生産性本部のレジャー白書(2017年)は、余暇活動の参加人口に関する統計を掲載しており、それによると日本における登山の参加人口は2016年段階で約650万人とされています。

図1:登山・ハイキングの行動日数ならびに行動者率

登山・ハイキングの行動日数ならびに行動者率

総務省統計局 平成28年社会生活基本調査より作成

図1は総務省統計局 平成28年社会生活基本調査結果より作成したものですが、これによると55歳〜69歳にかけて行動者率(すなわちその年齢層における登山者人口の割合)が増加しています。また、55歳〜74歳にかけて一人あたりの平均行動日数(1年間に登山を行った日数)も増加しています。
この結果が意味するところは、近年の傾向として60〜70歳代の登山者が多いと言うことです。

図2:山岳遭難の増加

山岳遭難の増加

日本山岳・スポーツクライミング協会「平成29年における山岳遭難の概況」より引用

図3:年齢層別山岳遭難者数の推移

年齢層別山岳遭難者数の推移

日本山岳・スポーツクライミング協会「平成29年における山岳遭難の概況」より引用

一方で、「平成29年における山岳遭難の概況」によると、山岳遭難も年々増加の一途を辿っています。平成29年には3111人が遭難され、354人が帰らぬ人となっています。実に11.4%と非常に高い死亡率です。さらに年齢層別にみると過去5年間はいずれも同様の傾向にあり、60〜70歳代の方が多く遭難されています。

図4:年齢と登山経験年数からみた遭難者数(長野県2014年)

年齢と登山経験年数からみた遭難者数(長野県2014年)

杉田浩泰: 登山研修, 31: 93-100, 2016 より引用・作図

こちらの図は2014年7月2日〜9月3日までの長野県での遭難者数を年齢層と登山経験年数との関係から見たものです。60〜70歳代の方が多いことは警察庁の統計と同様ですが、意外な事実として10年以上の登山経験を持ついわゆるベテランの方に事故が多いことがわかります。
さらにこの調査では長野県山岳遭難センターが遭難者に対してアンケートを行っているのですが、下記のようになっています。

  • 「トレーニングをしている」94%(種目は「ウォーキング」が63%と最多)
  • 「同年代より体力があると思う」75%
  • 「選んだコースに対して力量が妥当」78%
  • 「事故後の反省として体力が足りなかった」58%

すなわち、遭難を起こしてしまった方の多くが日常的にトレーニングを行い、体力に自信があり、自分の体力に見合ったコースを選んだつもりが、結果的には体力不足であったということになります。

図5:山岳遭難の原因

山岳遭難の原因

日本山岳・スポーツクライミング協会「平成29年における山岳遭難の概況」より引用

こちらの図は再び警察庁の「平成29年における山岳遭難の概況」より引用したものですが、山岳遭難原因の第1位は道迷いであり約40%を占めます。第2位は滑落・転倒が30%程度となり、それにつづいて病気・疲労が12〜13%程度を占めています。
しかし、これらの統計は最終結果としての原因です。例えば「疲労の果てにうっかり登山道をはずれて道に迷い、結果として滑落してしまった」場合には「滑落」と判断されます。道迷いまでの段階で救助されれば「道迷い」と判断されます。つまり、「道迷い」や「滑落・転倒」の背景には「疲労」があるのではないかと推測しています。前述のアンケート結果もその推測を裏付けており、遭難者の58%が事故後に体力不足を自覚しています。

これらのデータから考えると、例えベテラン登山者であっても自分自身の体力を推し量ることは難しく、「登山者の体力」と「目的の登山コースに必要な体力」が解離していることが遭難の大きな原因になっていると思われます。
当院での登山者検診を受けていただくことで、CPX(心肺運動負荷検査)により運動耐容能を客観的に評価することができます。「心肺運動負荷試験(CPX)とは?」)(「CPXでわかる登山に必要な体力」
CPXの結果に応じて、各個人に見合った登山計画をご相談させていただきます。

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