不整脈に対する手術(MAZE手術・左心耳切除術)CARDIOVASCULAR
不整脈に対する手術
現在、不整脈単独で心臓の手術を行うことはほとんどありませんが、他の心臓手術を行う際に心房細動などの不整脈がある場合は、同時に手術を行っています。
MAZE手術(心房細動に対する手術)
不整脈を起こす原因となる心臓の部位を数分間、冷凍凝固(クライオアブレーション)してしまい、悪い電気の流れを止めて、不整脈を治療します。
同時に血栓のできやすい心臓の部位を閉鎖して、脳梗塞などの予防を行います。
心房細動について
心房細動という不整脈は放置すると、正常の方の5倍も脳梗塞を起こしやすくなると言われています。この脳梗塞が恐ろしいのは、比較的大きな血栓が飛んでいき、それが崩れて広範囲に詰まってしまうため、広範囲の脳梗塞となり予後が非常に不良です(図1)。1か月で25%、1年で40%の方が亡くなります。たとえ命を救えても寝たきり状態や半身麻痺といった重篤な障害が残ることが多いため、心房細動を指摘されたら脳梗塞を予防することが最も重要と考えられています。
図1:心原性脳梗塞のCT
不整脈による脳梗塞を予防する治療法
心房細動という不整脈では心臓内に血栓ができやすくなるため、血栓予防のため、血液サラサラの薬を毎日内服していく必要があります。しかし、お薬は万能ではありません、他に病気を持っている方は薬のコントロールが難しいこともあります。薬を内服していても血栓ができて脳梗塞を繰り返したり(図2)、お薬の副作用で出血を繰りかえし困っている患者さんがいます。(図3)
図2:血栓が飛んでいく様子
図3:血液サラサラによる出血の副作用
心房細動という病気のみの場合、心臓にできる血栓の9割は左心耳という部分にできることが知られています。血栓を予防する治療方法は現在4つに分かれ、それぞれに良いところ悪いところがあります。
- 血液サラサラの薬を一生涯飲む
- カテーテルで不整脈の治療をする。
- 血栓のできる左心耳にカテーテルで詰め物をする。
- 血栓のできる左心耳を外科的に切除する。
上記1-3の方法は体の負担の少ない方法ではありますが、脳梗塞を完全に予防することはできません。治療に抵抗性のことや、再発して治療を繰り返す必要があったり、結局は治療しても血液サラサラの薬を内服し続けなくてはいけないケースも多く見られ、納豆を含めた野菜などの食事制限を一生続けなくてはならないこともあります。
その点、血栓の原因となる左心耳を切除してしまうことは、心房細動による脳梗塞をほぼ完全に予防することが可能で、最も脳梗塞の発症を低くする治療法です。 当院でも薬の治療が合わない方や、カテーテルでの治療が難しい方には積極的に左心耳を切除する方法を行っています。これにより血栓の心配がほとんどなくなり、サラサラのお薬も中止することが可能で、食事を含めた生活の制限はなくなり、再発の心配もありません。この方法は心臓の手術を受ける際に同時に切除することが多く、我々も2016年より原則的に全症例で行っており、これまで数百例の方に施行しています(図4)。2020年から保険適応となり、わが国でも左心耳を切除することの重要性が認められるようになりました。
内視鏡による左心耳切除術(Wolf-Ohtsuka法)
保険適用 2022年4月~
内視鏡による左心耳切除術(Wolf-Ohtsuka法)は、大塚俊哉先生が考案した画期的な治療法で、1cm程度の小さな傷を介して左心耳を切除することが可能です(図5)。この手術は心房細動の恐怖から多くの患者様を解放しています。診療部長の青木医師は2017年からこの手術を行い、2024年5月には経験数が300例を超え、特に内視鏡下での左心耳切除術の経験は152例に及びます(手術指導に出向いている全国6施設での手術や指導症例を含む)。これらの手術は合併症が少なく、2024年5月現在で全ての患者様が無事に退院されています。
内視鏡で行う左心耳切除術は全身麻酔で行いますが、左胸に4つの穴をあけて行い、手術時間は1時間程度、数日の入院で日常生活に戻ることが可能です。(図6,7,8,9)
図6:当院で治療された患者さん、術後1ヵ月の傷
左心耳切除の適応となるのは心房細動の患者さん全てですが、特に下記のような方々に有効です。
- 脳梗塞を起こしたことのある方。
- サラサラの薬を内服しているのに、薬が効かず脳梗塞を起こしている方、もしくは脳出血を起こした方。
- サラサラの薬で貧血になるほど出血(胃や腸)を起こしたことがある方。
- サラサラの薬を3種類以上飲んでいて減らしたい方、もしくは薬を飲みたくない人。
- カテーテル治療で再発した方。適応がないと言われた方。
これまで左心耳切除に関する学会発表、講演会、論文など数多く行ってきて、ライフワークとして活動しています。
論文
「開心術症例に対するステイプラーを使用した左心耳切除の手術成績と問題点」
青木雅一、降旗宏、清水寿和、住吉力、長野博司、森田英幹、川浦洋征
日本心臓血管外科学会雑誌2019 Vol.48 2号 97-102
学会発表
- 「胸腔鏡下左心耳切除術(WOLF-OHTSUKA法)の導入」 第31回日本小切開・鏡視外科学会 広島 2018.6.30
- 「OPCABと同時に施行したステイプラーによる左心耳切除の手術成績」第23回冠動脈外科学会学術大会 和歌山 2018.7.13
- 「Concomitant Left Atrial Appendage Amputation By Stapler During Cardiovascular Surgery.」第71回日本胸部外科学会定期学術集会 東京 2018.10.6
- 「胸部大動脈手術と同時に施行する左心耳切除の意義」 第62回日本脈管学会総会 広島 2018.10.25
- 「OPCABにおけるステイプラーを使用した左心耳切除術の安全性と遅発性脳梗塞予防の効果」 第32回日本冠疾患学術集会 熊本 2018.11.17
- 「抗凝固療法コントロール不良症例に対する胸腔鏡下左心耳切除術(WOLF-OHTSUKA法)」 第31回日本内視鏡外科学術集会 福岡 2018.12.8
- 「ステイプラーによる左心耳切除はPOAFに起因する遅発性脳梗塞予防に有効である.Left atrial appendage amputation using the stapler is effective for prevention of delayed cerebral infarction caused by POAF.」 第119回日本外科学会 大阪 2019.4.19
- 「5年間で6回の消化管出血を繰り返した慢性心房細動患者に対して内視鏡下左心耳切除を施行した一例」長野県民医連医師総会2019.12.21
講演会
- 「コントロール不良な心房細動に対する胸腔鏡下左心耳切除術」松本 循環器懇話会
- 「下肢静脈瘤と心房細動(心原性脳梗塞)」入山辺友の会2019.11.30
- 「凝固療法コントロール不良な心房細動に対する胸腔鏡下左心耳切除術(血糖・脂質管理を含めた外科的な左心耳マネージメント)」第255回松本循環器カンファレンス 2020.1.21
- 「内視鏡下の心臓手術(2022年4月に保険適応となった左心耳閉鎖術を中心に)」第29回医療連携五病院臨床研究会 2022.5.14
研修プログラムのご案内
当院では、内視鏡下左心耳切除術の見学および研修を随時受け入れております。
研修対象者は後期研修医以上とさせていただいており、研修期間に応じて以下のような目標を設定しております。
3ヶ月:完全内視鏡下左心耳切除の術者経験
6ヶ月:完全内視鏡下の左心耳切除を術者として一人立ち
12ヶ月:完全内視鏡下MAZE手術まで一人立ち
現在、当院の後期研修医は半年程度の研修で完全内視鏡下MAZE手術まで執刀するレベルに達しており、MICS手術の入門としても指導しています。 また、MICS実施医としての経験を積んだ青木医師がMICS指導医として認定され、内視鏡下での左心耳手術においても質の高い指導を行っています。
全国への手術指導のご案内
弁膜症や左心耳手術の指導につきましては、全国どこへでも出向いての指導が可能です。
ご要望がございましたら、以下の連絡先までお気軽にご連絡ください。
松本協立病院 医局事務: 0263-35-9730